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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)37号 決定 1981年8月26日

抗告人 有限会社 丸証

右代表者取締役 本田喚尚

相手方 森川祐吉

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、原決定を取り消し、更に相当の裁判を求める旨申し立てた。その理由は別紙記載のとおりである。

二  右抗告理由について、当裁判所は、次のように判断する。

いわゆる仮登記担保権がその担保的機能の面において抵当権との間に相当の共通点を有し、仮登記担保契約に関する法律がその点に着目して、仮登記担保権につき、抵当権に関する民法等の規定と内容を同じくする若干の規定を設けていることは、抗告人の指摘するとおりである。しかし、そのことから直ちに、明文の規定をまたないで、抵当権の実行としての競売の場合に適用される借地法九条ノ三の規定を仮登記担保権の実行の場合に類推適用すべきものとすることは困難である。思うに、仮登記担保契約は、代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約等の、所有権の移転を目的とする契約であると解するのが相当であって、その本質は、債務不履行の場合、右の契約に基づき目的物件の所有権が債権者に移転されることにより担保機能が実現される点にある。仮登記担保権の実行というのは、前叙代物弁済予約等の契約に基づき所有権の移転を生じさせることにほかならない。ところで、借地法九条ノ二及び三の各規定は、いずれも賃借権たる借地権を第三者に譲渡する(九条ノ二においては転貸を含む)についての賃貸人の承諾に代わる許可の裁判に関する規定であるところ、両規定を対比すると、九条ノ二は借地権者が第三者との契約により借地権を地上建物の所有権とともに移転する場合について規定したものであるのに対し、九条ノ三は、公的機関が介入して借地権者の意思にかかわりなく地上建物が売却(競売又は公売)され、それに伴って借地権が移転する場合について規定したものであることが明らかである。借地法がこのように二つの類型に分けてそれぞれの類型に応じた規定を設けた趣旨にかんがみると、仮登記担保権の実行の場合は、前示のように借地権者(債務者)と債権者の間の契約により地上建物の所有権とともに借地が右債権者に移転されるのであるから、同法九条ノ二の適用を受けるべき類型に該当するというほかない。

さすれば、抗告人が借地法第九条ノ三の規定により許可の申立をすることは許されないというべきである。

三  よって、本件申立を却下した原判決は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却すべく、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 園部秀信 裁判官 村岡二郎 川上正俊)

<以下省略>

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